<バカロレアの哲学>

みなさん、こんにちは。

ご訪問いただき、ありがとうございます。

さて「鬼に金棒」という諺がありますが、改めて意味を調べてみると、

下記のような説明がされています。

《強い鬼にさらに武器を持たせる意から》ただでさえ強いものに、一層の強さ

が加わること。

(出所:Weblio 国語辞典 より)

私たち人類は、生成AIという金棒を手にすることができるようになりました。

上記の鬼というのは力が強いものともいいますが、転じて知識のすぐれた者とも

捉えることができるようです。

私たちは生成AI(金棒)を使いこなせる側になるのか、それとも振り回されてしまうのか

議論が紛糾しています。

そのような背景において、私たちは改めて「知識」とは何かを知るとともに、

どのようにすれば「知識」を使いこなすことができるのか、改めて考える時が来た

ように思います。

そして、そのカギの一つとなるのが「哲学」ではないかと、そう考えるに至った次第です。

今回ご紹介するのは

坂本尚志 (著) 『バカロレアの哲学-「思考の型」で自ら考え、書く』

(日本実業出版社, 2022年, ¥1700+税)

実にタイミングが悪く、今この本の舞台であるフランスで暴動が続いております。

著者も「バカロレア哲学」が決して万能ではないことを踏まえたうえで、

私たち日本人がこれを知ることに意味があると示唆しています。

本書は、冒頭以下のような問題が投げかけられます。

労働はわれわれをより人間的にするのか?>

 <技術はわれわれの自由を増大させるのか?

 <権力の行使は正義の尊重と両立可能なのか?>(p.001)

「え?いきなり何?」と面食らってしまう問題ではありませんか?

みなさんは、いかがでしょうか。

実は、このような問題はフランスの高校生が卒業時に受ける、「バカロレア」

という哲学科目の試験だそうです。

合格すると、高校卒業資格を得られるとともに大学入学の資格にもなるそうです。

では、いったいなぜこのような難しい試験を高校生に受験させるのでしょうか?

それは「市民」を育てるという目的で行われているということです。

「それはつまり、民主主義において、自分自身の理性によって考え、発言し、

行動できる人間を育てることです。」(p.004)

それにしても、こんなに難しい問題をフランスの高校生はどうやって解くのですしょうか。

私たちのように、高校を卒業してある程度経験を積んだ大人ですら歯が立ちません。

本書を読み進めていくと、どうやらフランスの高校生は哲学の「型」を習得するのだ

そうです。

どのような「型」があるのか、その型を使ってどのように問題を解くのか、詳細は本書で丁寧に順序立てて説明しています。

読み始めたときは、なんだか他人ごとのような話なのですが、読み進むにつれて

はたと気が付きます。

「労働はわれわれをより人間的にするのか」という問いから、AIが人類の代わりに

労働してくれて、もう私たちは働かなくて済むようになったら(ベーシックインカム)

私たちは、労働から解放されてより人間的になれるのだろうか?そもそも「労働」の意義は

なんだろう?労働は賃金を対価に労力を提供するだけのものなのだろうか?

そして生成AIの進化により、私たちはより自由を増大させることができるのだろうか?

そもそも「自由」は、我々に幸福だけを与えてくれるのだろうか?

色々なことが思い浮かびます。

以前「STEAM」教育に関する書籍を紹介したのですが、読み終わった直後、何か物足りなさを感じました。その時に本書と出会ったわけです。

STEAM教育は、確かにイノベーションを起こすための知識を育てるのに期待できそうですが、技術だけが先行しているような、つまり金棒だけが強くなって、鬼はその金棒を

使いこなせるだけの力を増強させなくてもよいのだろうか?そんな気がしました。

あくまで個人の感想ですが。

それでは、日本でも「バカロレア」のような哲学教育を取り入れた方がよいのか?

著者は、こう綴ります。

「論理的思考が社会的に構成されるものである以上、その一部を切り取って習おうとしても、背景や文脈が共有されていない状況では、その理解や受容は皮相的なものにとどまるかもしれません。」と。(p.234)

それでは、なぜ著者はフランスの哲学教育や「思考の型」を日本に紹介したのか。

それはその「理念」が私たちにとっては示唆に富んでいるからだと述べています。

「思考の型」は、決して万能ではないと断りつつも、私たち日本人にとっても、

特に学生さんにとってはなお一層、答えのない問題を考察するための取り掛かりとして

役に立つツールではないかと思います。

今回の投稿では、「哲学」について、より踏み込んだ話に触れることはできませんでしたが、また時期や状況をみて必要と感じたら、読みやすそうな哲学の本を探して

ご紹介したいなと思います。

 さあ、今週末は『ナレッジ・イネーブリング』をもっと進めなければと思っておりますが、並行して、いよいよ『生成AI- 社会を激変させるAIの想像力』を読み始めようと思います。

順番が前後しますが、旬のトピックですので。

それでは、みなさまもよい週末を!

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