ものづくりに魂あり、ビジネスに思想あり

改めて、今回ご紹介するのは

吉田善一(著)『和の人間学- 東洋思想と日本の技術史から導く人格の行動規範』

(富山房インターナショナル, 2014年, ¥1,800+税)

本書を読みながら、不思議なご縁を感じました。

この本にたどり着いたときの記憶は、ありませんが、何かのキーワードで

検索して、ネットで注文しました。

いい時代ですよね。書店では出会えない本に、ピンポイントで見つけることができる。

本書を読みながら、いろんな本やミュージアムで見てきたものがつながっていく

不思議さを感じました。

著者の吉田善一氏も、本業とは関係の薄い東洋思想に出会い、工学と東洋思想という

ユニークな研究をされています。

この本は、今日本のものづくりに必要な答えを与えてくれる一冊だと思います。

まずは、吉田氏の経歴から見ていきましょう。

吉田善一 (よしだ よしかず)

神戸市立工業高専機械工学科中退

筑波大学物理工学科卒業

京都大学電子工学教室研究員

松下電器産業(株)生産技術研究所・中央研究所を経て

山梨大学機械システム工学科助教授

東洋大学機械工学科教授

現在(2025年現在) 長野大学 共創情報学部 教授

吉田氏が「東洋思想」に出会ったのは、高専時代の国語の授業だったそうです。

その後、松下電器に入社してから、昇進試験のたびに松下幸之助の経営哲学を

通じて東洋思想を学んだとのことです。

さて、ものづくりの「根っこ」を探す旅がたどり着いたこの本ですが、

旅の途中で、こんな本にも巡り会いました。

飯田賢一(著)『技術思想の先駆者たち』(東洋経済新報社)

そして

池内 了(著)『江戸の好奇心 花ひらく「科学」』(集英社新書)

これらの本に書かれていることも、つながっているのだなと感じました。

改めて、ものづくりの「根っこ」とは何だろう?

それは「技術思想」だったのではないでしょうか?

「技術思想」とは何か?

生成AIに尋ねたところ、こんな回答が返ってきました。

「技術思想とは

単なるアイデアや美的創作ではなく、技術的課題をどう解決するかという論理的な構造や発想を指します。」

根っこ、すなわち「技術思想」なきものづくりは、単なる真似ごとに過ぎません。

裏を返せば、簡単に真似もされてしまいます。

著者の吉田善一氏は、「ものづくりはひとづくり」だといいます。

人を育てるとは、単に技術伝承をするだけでなく、人間力を育てなければなりません。

一方で、いくら素晴らしい製品を作ったとしても、売れなければなりません。

「商売」にも人間力が問われます。

ビジネスにも「思想」あり。

それは、渋沢栄一氏の『論語と算盤』からも読み解くことができ、

また松下幸之助氏のミュージアムをおとづれた際も、同氏のビジネス思想を

知ることができました。

こうした思想の背景に、「陽明学」という東洋思想の影響があったことを

本書を通じて知ることができました。

日本のものづくりの根っこは、おそらく江戸時代に形作られ

古来の日本の自然信仰や「神道」「仏教」「儒教」「陽明学」などが合わさり

ものづくりや商売に、独特な思想が生まれたものと思われます。

これが、いわゆる「和魂」と言われる元となっているのではないでしょうか?

残念ながら、まだ『武士道』を読み切っていないので、パズルのピースが

完成しておりません。これも重要な要素だと予想されます。

本書は、日本の根っこを知らしめるだけでは終わりません。

「西洋思想」や「西洋文明」が、自然をどのように捉えてきたのか、

そして科学が進歩していった結果、科学が人間の手から離れて

時に人に牙を向け、そして自然環境に深刻な影響を与えていることを

踏まえたうえで、「東洋思想」が果たしうる可能性を示唆しています。

このことに関しては、私が以前読んだ本の中で、湯川秀樹博士が

「科学」について語っていた言葉を思い出しますし、

前述の『江戸の好奇心花ひらく「科学」』(池内 了)

を読んだ際も、江戸時代に日本独特の科学が存在したことを知り、

もう一つの「科学」の可能性について関心を持ちました。

自然と対立する科学ではなく、自然と一体とする科学の可能性を

日本に期待したくなります。

「もう一つの科学」そして「東洋思想」。

これらは今後のテーマにしたいと思います。

「仏教」そして「禅」には、宇宙に関する記述が着られます。

「宇宙」をどうとらえるのか、これも人類の未来を左右しそうな気がします。

また、著者が示した「無根無才」という言葉。

はっとしましたが、なるほどとも思いました。

それは、まるで根っこを切られた「切り花」のようではありませんか。

切り花は、見た目には美しいのですが、あっという間に色あせて枯れてします。

そうすれば、また新しく花を入れ替えればよい。

そんな短命のサイクル。

一方、神社の樹木や神木は、長い年月をかけて天高くそびえたつ。

人間たちを見下ろしながら。

「根っこ」不要ですか?

「根っこ」大切ですよね。

神社仏閣、歴史的建築物は今もなお健在です。

京都には、今も外国人観光客が押し寄せます。

和魂和才を求めたであろう、国学者本居宣長の直筆を三重県松阪で拝観できます。

三方よしの近江商人、儒学者の中江藤樹。滋賀に行ってみようと思います。

二宮尊徳も。

そして、産業遺産もめぐってみたいです。

「和魂和才」。

この答えはすぐに導けるものではありませんが、

ひとまずイノベーション編としては

「知識」について見ていくことにしましょう。

次回は、ソーシャル・イノベーション編「治水」です。

それでは、また。

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